帯屋捨待
第一回
日本の帯の故郷、西陣織を訪ねて
帯屋捨松 木村四郎さん

 

長い伝統をもつ織物や染物がある。
商売柄これまでに膨大な数を目にしてきましたが、その中に(ごく希ですが)
「この作品は何故この世に生まれ、どうやって現代に生き残ってきたのだろう」
「どんな人が作っているのだろう」と気になって仕方がないものがあります。
それは、紛れもなく名工の手によるものです。
名工には孤高(頑固者?)のイメージがあります。
機嫌を損ねたら一刀両断にされないだろうか・・・
一抹の不安を感じながらも、疑問を疑問のまま残しておくのは性に合わないし、
元来、大の人好き、旅好き、そしてモノ好き(物好きではない)な私。
日常の業務に支障のない範囲(と私は思っている)で、
念願の『日本の名工に会いに行く旅』をスタートすることにしました。

 

 
掘り出し物はきものと帯の集散地「京都」

平成11年の暮れ、冬の色に染まった京都・西陣。この地名は『応仁の乱のとき西方に敷いた陣地』に由来すると言います。記念すべき(私の中だけの記念ですが)第一回目の旅は、やっぱり京都。伝統工芸のまち、きもののまちとして全国に名を馳せる西陣の中でも出色の作風で知られる「帯屋捨松」(1854年創業)」さんを訪ねました。歴史を感じさせる建物の風貌、店内にもおそらく百年はゆうに越えた家具や品物がたくさん残っていて、観光客が店の前で記念写 真をとって行く観光スポットにもなっています。お会いしたのは御主人の木村四郎さん。捨松の6代目であり50歳代の方です。

「90年代はじめのバブルの頃は良いものでもそうでないものでも、何でも売れたところがありました。でも今は本当に努力して創作に励んだのものでないと、本物を知るお店やお客様に受け入れてもらえない。私どもにとっては、とてもやり甲斐があるいい時代になりました」とおっしゃいます。
私が持永です(左) わたしが木村です(右)
帯屋捨松の木村四郎さん(左は私です)
ああ、本物の職人さんだ。お会いしてよかった。私がニラんだ通 り捨松の帯はきっと長い歴史を持っているに違いありません。うれしくなって、その独特の色や組織はいつからか確立されたものかを聞いてみることにしました。(江戸時代かな?室町時代かな?) 「兄と私の代からですよ」 えっ、初代から6代にわたって受け継いできたものじゃないの?意外そうな、そしてちょっぴり落胆した私の顔を見て、6代目はこう続けてくれました。

その心と技を受け継いで

「私には素晴らしい先生がおられて、その方が私を育ててくれたんです。その先生とは徳田義三といわれる方です。名前を表に出すことを嫌われ、無形文化財保持者や“現代の名工”などの肩書きとは無縁の方でした。しかし、今思うと北大路魯山人ととてもよく似た方でしたね。義三は魯山人が嫌いで『自分と同じにしないでくれ』と言っておりましたが、作品に対する頑固なまでのこだわりやモノ創りのためなら廻りが見えなくなり、周囲の人間に少なからず迷惑を掛けてこられた天才肌の方でした」

徳田義三氏は、伝統を頑なに守り続けることで作家が個性を発揮できず、時代のニーズとのズレを生みつつあった西陣織の世界に独自の作風で一石を投じ、西陣のメーカーがこぞって「図案や組織図を描いて欲しい」と頭を下げて来たような人。自分の満足する帯を作れないメーカーの注文は、いくら金を積まれても断ったという伝説の人物です。 こんなエピソードがありますよ、と6代目は続けます。

 

この帯の柄なんてどうですか?いいでしょう

「良い作品のアイデアがまとまると、夜中でも糸を買ってこいと言うんです。店が閉まっているなら糸屋を起こせばいいじゃないかと(笑)。作品の良さは理解できても、義三そのものを理解できた人は、そうはいませんでしたね」
と当時を懐かしみます。6代目が徳田氏のもとに住み込みで修行に入ったのは十代の頃。現在の屋号『捨松』も6代目を見込んだ徳田氏が命名し、捨松の図柄や組織もそのままのかたちで託されたそうです。捨松の帯は一目でそれとわかるものであり、連綿と続く西陣織の歴史の中で明らかに一時代を記す個性を持っています。
木村四郎さんは百四十余年の“のれん”を誇る西陣織の6代目織元であり、2代目『捨松』でもあるのです。


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「徳田義三先生は今から4〜5年前になるでしょうか、八十歳半ばで亡くなられました。あんな凄い方はこれまでにも記憶にないし、これからも出ないでしょう」と6代目。そこからは、たぐい希な技術だけでなく「心」を受け継いでいる自信がうかがえます。義三を後生に伝える人、そして義三を越える職人は、木村四郎氏この人しかいません。

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