藍染古庄
第二回
青は藍より出でて、藍より青し
藍染古庄さん

2月の旅は藍染のふるさと徳島へ。
徳島は県をあげて藍染づくりを奨励していて、
高校の必須科目にもなっているところです。
今回訪れた藍染古庄のご主人・古庄さんは、
1月の「西陣捨松」のご主人と同じ6代目。
おじゃました時は染めの作業の真っ最中であり、
お許しを得て写真をとりながらひと段落するのを待ちました。
古庄さんとは面識もあったので、
ご挨拶もそこそこにさっそく意地悪(?)な質問をぶつけてみました。

 

 

「藍染は〈本藍〉や〈正藍〉〈自然藍〉など、さまざまな名前をつけて売られていますよね。みなさん『うちが本物だ!』と主張されているのですが、買う側にとってはどれが本物なのかよく判りません」。

「蓼(たで)を植え、育てて刈り取り乾燥させたものを室(むろ)で発酵させて"すくも"(藍染の染料で各地の藍染作家の元へ送られる)をつくり、藍を藍瓶で育てて、細心の注意を払って染め上げていく、とても手が掛かるものなので値段が高くなるとメーカーさんは言われますが、化学染料で染めた紺色とどう違うのですか?」。


たわしが古庄です。
藍染古庄の古庄 紀治さん
いきなり失礼な話ではあります。でも、国内はもとより欧米にもたくさんのファンを持つ徳島の藍染ですから、このへんはキッチリしておく必要があります。古庄さんは工房を案内してくださりながら、淡々と、そして終始にこやかに答えてくれました。 「四国の藍染は、藍液を作るときに化学薬品を使わずに木灰を使う『灰汁(あく)建て』(本建て)と言う昔から伝わる染め方なんです。そして、その時に色を早く濃くつける為に薬品を入れる方法をとっている所もあるんです。薬品を併用した商品があってもいいのですが、それを『伝統の…』などと冠されるのには抵抗を感じますね。 ただ、年月が経つと明らかに色が違ってくるんです。その時に灰汁建てか薬品使いかが判ってきます。購入時点で二つを判別 することはなかなか難しいので、買う時にお店の人に聞いてみて下さい。その質問に答えられないお店からは、高いものは買わない方がいいかも」 とおっしゃいます。
本物の藍色ってどんな色ですか?

その他の染め方は問題外。残念ながら藍染とは言えない「藍染もどき」が多く出回っているのも事実です。化学染料で紺に染めて、最後に藍に一度浸けただけのもの。またはインディゴピュアで染めたものもあります。ヒドイ例では藍染の匂いを付着させただけのものを藍染と称して売っているものまであるとか。 「インディゴピュアといわれる染料は藍に非常に似た化学分子を持っているので、それで染めたものを本藍などと称しているんでしょうね。お店に並んでいる藍染が蓼から取った色かどうか見分ける方法は、ただ一つ。本物の藍色を目に焼き付けておくことしかないんです。自分が気に入った藍色なら、それを本物と信じてもいいのでは?」

 

笑いながらもけっこうキビシイ古庄さん。 食い下がる私に、こんなエピソードを話してくださいました。 「徳島県内の高校の授業で、青い布を並べて好きな色に順番をつけさせました(もちろん染めの方法は教えずに)。すると、生徒全員が本物の『灰汁(あく)建て』で染めた藍染を一位 に選んだのです。 地元の彼(彼女)らにとって藍染は身近なもので、藍染の授業を受けていたかも知れないことは割り引いても、クラス全員一致には驚きです。きっと、人は本能的に自然の素材から生まれた色に惹かれる習性を持っているのかも知れません」
自然の中で唯一手に掴むことができる自然の青

さらに「藍で染めた生地は30%強度を増し、化学染料で染めた生地は10%弱くなることをご存知ですか」と古庄さん。と言うことは、藍染と他の染め物は強度に40%もの違いが出ることになります。藍染が、風呂敷や作務衣など暮らしに密着した染めに多いことや、数代にわたって愛用されている方が多いのもナットクです(それって、うらやましいほどイイ味を出してるんですよねぇ)。 藍は虫を寄せつけない効果があることから、身に着けるものを藍に染めることが広まったこと。

 

古代エジプトの人たちは、目のまわりに藍を塗って虫よけにしていたこと(これがアイシャドーの起源と言われる。藍シャドーかな?)など、藍にまつわる面 白い話が出るわ出るわ…。 「空の色も青。海の色も青。しかしどちらも手に掴めません。藍染の青は唯一、人間が手に掴むことが出来る〈自然の青〉なんです」 たくましい腕をした名人は、詩人でもありました。あぁ、来てよかった。藍染が生まれる瞬間を目の当たりにできた感謝の気持ちを伝えて、2時間の訪問を終えました。
藍染の訪問着の染色工程
その1
白生地の柄を糊伏せした訪問着を藍液に浸けようとしている所。 一番むらが出やすい所なので慎重に浸けていきます

その2
藍に完全に浸かった状態。いい色に染めるには正確に時間を計って藍液に浸します。

その3
藍瓶から出した瞬間は藍色ではなく、緑色をしているのです
その4
藍が酸化してきれいなブルーになり、再度時間を計りながらまた藍瓶に浸けていきます
藍染ゆかたの作業工程
その1
藍染めの浴衣を染めるために藍の染料をかけています

その2
藍の染料が浸み込むように何度も藍を流します

その3
染め上がった浴衣を確認しているところです
その4
糊伏せした所の糊を洗い流します

 


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若旦那のつぶやき

日本にやってきた小泉八雲(ラフカディヨ・ハーン)は藍色をジャパンブルー、日本を『青き小さき国』と呼んだ。当時はきものも藍木綿、家に入ると暖簾も藍、部屋で勧められる座布団も藍、寝るときの布団も藍、食事の時の食器も藍の染め付けが中心でした。藍染は日本の気候と風土に強く結びついたものであり、日本の伝統文化そのものです。5代目で父上の古庄理一郎氏は、昭和31年に徳島を訪ねてきた民芸運動家、柳宗悦やバーナード・リーチが藍染の素晴らしさを熱く説いたのに触発され、四国伝統の藍染づくりを復興した人。その情熱は、紀治氏にしっかり受け継がれています。

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